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■大会実行委員長挨拶

経済社会学会第48回全国大会報告

『経済社会学会年報』XXXV号、2013年、3-4頁、所収

プログラム委員会委員長/共通論題座長 橋本努(北海道大学)

 


 

 2011311日に起きた東日本大震災とその後の原発事故は、いまなお日本社会に大きな衝撃を与えている。地震対策や津波対策は十分なのか。災害に際して、コミュニティはいかに対応しえたのか。原発は是か非か。原発の背後にある科学技術の問題を、私たちはいかに捉えるべきなのか、等々。これらの問題はいずれも、重大かつ広範な射程をもっており、3.11後の日本社会は、かかる大きな諸問題を抱えながらも、再びダイナミックな社会変動に巻き込まれている。

こうした現代の社会変容に直面して、私たちは英知ある社会認識と、社会政策への含意を示すことが求められている。そのような認識に立って、小生は本大会にて、「3.11後の環境と経済社会」をテーマにしたいと発案した。このテーマは、201112月の役員会において大方の了承を得た。その後、大会では「一般公開フォーラム」と「共通論題」という二つのシンポジウムを開催することが決まり、例年になく、ひとつのテーマで二つのシンポジウムを企画することになった。

大会準備のためのプログラム委員会では、テレビカメラを利用した討論のほか、メーリングリストの活用を通じて、委員会のメンバーのあいだで活発なやり取りをすることができた。加えてウェブ上に、本大会のプログラムや報告要旨などを公開し、広く市民の方々に、本学会の活動を伝えることにした。

本大会における「一般公開フォーラム」では、北海道を代表する環境学者ならびに環境運動家の方々に、それぞれご報告を賜ることができた。ご登壇者の皆様には、ここに記して感謝申し上げたい。当日のフォーラムでは、フロアからの質疑応答を含めて、私たちが直面する環境社会問題について、多角的に理解を深めることができたように思う。フォーラムの概要については、本年報所収予定の拙稿「フォーラムの概要」を、ご参照いただきたい。なお、一般公開フォーラムでは当初、参加費として、資料代(コピー代)を有料にすることを検討したが、本学会役員会におけるある会員の発言がきっかけとなって、無料化に至ったことは幸いであった。有料化した場合には、市民の聴講者の数は制約されていたかもしれない。

 この他、「共通論題」においても、3.11大震災と原発事故以降の環境問題をめぐって、質の高い報告がそれぞれ発表され、議論が交わされた。本学会の会員のなかで、環境問題を専門とする研究者は、決して多いとはいえない。けれども、3.11後の日本社会の変容を分析することは、私たちに課せられた課題であり、環境社会をめぐる後続の研究者を育てるためにも、かかるテーマは本学会の全国大会にて、今後も継続的に取り上げるに値するように思われる。

2012年末に至るまでの民主党政権の段階では、原発は、段階的に廃止していく方向で検討されていた。ところが同年末に再び自民党が政権を握ると、「卒原発」は白紙撤回され、原発の開発と稼動は再び容認される可能性が生まれている。かかる政治的決定をめぐって、経済社会学はいかなる議論を積みかさね、あるいは提供することができるのだろうか。今後も皆様とともに、認識を深めていきたい。(私見では、3.11大震災と原発事故は、「ポスト近代」から「ロスト近代」への大転換を決定づけるものであり、従来の「新自由主義」対「社会民主主義」の対立を超えて、別の理解の枠組みを必要としている。)

 最後に、本大会の会場設営や、受付の運営など、裏方で働いていただいた会員・非会員の皆様に、心から感謝申し上げたい。